経営理念に従うのは誰か
                                                            平成29年10月25日
                                                                               
 税理士事務所に就職し、税理士という仕事に就いてから23年が過ぎました。税理士とはどんな仕事かもよく知らずに就職し、何とかここまで来ることが出来ました。
 税理士という仕事には、企業を数字で見る仕事と、法律の視点で守る仕事があります。最近、合い言葉のように「法令遵守」と言われるようになりました。食品偽装表示事件、耐震偽装問題など、違法行為の実体が新聞報道される事が多くなり、法令遵守が叫ばれるようになったのでしょう。

 物に本末有り。事に終始有り。先後する所を知れば、則ち道に近し。
 物事には必ず本と末、終わりと始めがあるものです。そこで、常に何を先にし、何を後にすべきかを知って行動すれば人の道に大きくはずれる事はありません。

 組織運営には、法と罰を重視する方法と、徳と礼を重視する方法とがあります。どちらが良いかと言えば、これは臨機応変に対応することになるのでしょう。しかし、経営者が徳と礼を忘れていては、理念やらスローガンを掲げても、なかなか周知されないでしょう。

  子曰く、之を導くに政を以ってし、之を斉える(ととのえる)に刑を以ってすれば、民免れて恥なし。これを導くに徳を以ってし、これを斉えるに礼を以ってすれば、恥有りて且つ格し(かつただし)。
 先生はおっしゃいました。「国民を導くために政策を用い、また治めるために刑罰をもってすれば、国民は法律の穴をみつけるでしょう。しかし、徳をもって国民を導き、礼をもって国を治めるならば、国民はその身を正すようになりましょう」と。

 法律を守って経営をする事は大切な事です。しかし、どれだけ法律を増やしても、法律では裁くことが出来ない事だってあることは誰でも知っています。そこに必要なものは、法の正義、つまり徳であり礼であると言っているのです。
 また、組織を運営するには、経営理念やスローガン、社是などを作って職員に浸透させる事が必要だと言われています。しかし、どんなに優れた文章を用いても、それで人が動くかというと、そうではないときが多いのではないでしょうか。人は言われて動くのではありません。心が動いたときに自然と動くのです。だからこそ、リーダーが率先して行わなければならないことは、襟を正し、職員の見本となる事ではないでしょうか。そして、自ら掲げた理念に従って行動をしている姿を見て、職員の心が動いたとき、これに従って行動することになるのです。これがなかなか出来ないから、職員に浸透しないのではないでしょうか。

 日本には約7,000もの法律があります。これだけの法律がなぜ有るかといいますと、国民が幸せになるためにあるのです。それと同じで、会社の理念や、組織のスローガンなども、社員やその企業に関係する人を幸せにするためにあるはずです。ならば、会社の理念や組織のスローガンに従って動くべきは、その組織のリーダーなのです。決してこれを掲げたからと言って、簡単に人が動くとは限らないのです。