勇気一つを友にして
平成29年11月25日
私の小さな事務所も、開業して10年が経ちました。
税理士事務所として独立開業に踏み切る際に、経営に必要な、事務所となる場所・お金・職員もなく、さらには平成19年の10月に開業でしたので、その年にはリーマンショックもあり、「100年に一度の危機」などと報道がされており、今後どうなっていくのかの情報さえも無い状態でした。何も無い状態からの出発でしたが、絶対に失ってはならないものが有ったんだと思っています。それが「勇気」です。資金・情報・人があり、経営者としての思いを暖めてきていたとしても、それが実現できない。「こうするべき。ああするべき」と人には格好良いことを言ってはいても、最初の一歩が踏み出せないままでいれば、何も始まることは無かったのでしょう。
幼い頃歌ったNHKのみんなのうたに「勇気一つを友にして」という歌があります。
昔ギリシャのイカロスは ロウでかためた鳥の羽根(はね) 両手に持って飛びたった
雲より高くまだ遠く 勇気一つを友にして ・・・・・・だけどぼくらはイカロスの 鉄の勇気をうけついで 明日(あした)へ向かい飛びたった ぼくらは強く生きて行く 勇気一つを友にして
イカロスが脱出する際に、自分の背中に蝋でつけた羽で飛び立ちます。当然蝋で固めただけの羽ですから、太陽に近づくと溶けてしまうかもしれません。それども、高く高く飛び上がります。そんなイカロスから勇気を受け継いで強く生きていこうと言う歌です。
しかし、このイカロスの物語には、もう一つ大切なメッセージがあります。この歌はギリシャ神話の一説になるのですが、「 ダイダロスはイカロスの父で、細工の名人でした。ダイダロスは後にミノス王から見放され、息子のイカロスと共に、ある塔に閉じ込められてしまった。その塔を抜け出すために、鳥の羽を集めて、大きな翼を造りました。大きい羽は糸でとめ、小さい羽は蝋(ろう)でとめた。
翼が完成した。二人は翼を背中につけた。父ダイダロスは、息子のイカロスに言います。
「イカロスよ、空の中くらいの高さを飛ぶのだよ。あまり低く飛ぶと霧が翼の邪魔をするし、あまり高く飛ぶと、太陽の熱で溶けてしまうから。」
二人は飛びました。 農作業中の人々や羊飼いたちが二人の姿を見て、神々が空を飛んでいるのだと思いました。しかしイカロスは調子に乗ってしまいました。父の忠告を忘れ、高く、高く飛んでしまいました。 太陽に近づくと、羽をとめた蝋が溶けてしまいました。イカロスは羽を失い、青海原に落ちてしまった。
勇気を持って飛び出す事は大事だが、それ以上に、上手くいったからといって、分相応以上の事をすれば、必ず墜落する事を意味している物語なのです。
困難にぶつかったときに、勇気を出して一歩を踏み出すことは、とっても大切なことです。しかし、調子に乗らず、じっと低空飛行でも長く飛び続けることを選ぶのも、経営者としては必要な決断なのです。どちらが大切かと言うと、私には分かりません。ただ分かっていることは、一度飛び出してしまったら、どんな困難にぶち当たっても、飛び続けることに知恵を絞るしかないと言うことなのでしょう。